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2011年7月16日 (土)

草の草(掛軸)

*:当記事には補足の記事があります。当記事をご覧の方は、補足の記事も必ず併せてご覧くださいますようお願い申し上げます。
☆補足の記事はこちらです。⇒『2012年11月 1日 (木) 掛軸の形式(草の草)』

こんばんはfullmoon玉木覚ですhappy01

日中はかなり暑いですが、夜は涼しいですねnote今夜は全然蒸し暑くなくて夜風がとても心地よかったです。そして京都では祇園祭がクライマックスの山鉾巡行を迎えますね。これからが夏本番といった雰囲気ですsun

さて、今日は『草』仕立の二つの様式(『草の行』、『草の草』)のうち、『草の草(そうのそう)』の掛軸を紹介しますflair『草』仕立は別名で『茶掛』と呼ばれています。それは『草』仕立が「質素」、「侘び」、「寂び」などの要素を表現している茶室で鑑賞するのにピッタリな様式だからです。ということで、『草』仕立(『茶掛』)自体も「質素」、「侘び」、「寂び」などを表現しています。

では、早速いつものように掛軸の写真を見てみましょうcameraこちらが『草の草』仕立の掛軸ですeye

3 ←『草の草』仕立の掛軸の例

この掛軸は玉木楽山堂の店頭に飾っているものです。当店のウェブサイトのトップページにも載っています。この掛軸の丸い図柄は宝珠を表していまして、当店のロゴマークです。

さて、宣伝はこれくらいにしまして、本題に行きます。

『草の草』仕立の掛軸の見た目の特徴は、『風帯』が『押風帯*1』になっていることです。『草の行』仕立の掛軸では『風帯』は『垂風帯*2』でした。また、『草の草』仕立では、「上下(天地)」に紙を使うことが多いです。紙を使った掛軸を「紙表具」と呼びます。写真の掛軸では『上下』に布ではなく紙を使っています。(ちなみに、紙ではなく布(裂:きれ)を使った掛軸を裂表具(きれひょうぐ)と呼びます。)

*1:押風帯(おしふうたい) ⇒ 風帯の形式のひとつで、上(天)に布や紙を垂風帯を取り付けるべき位置で貼付けするものです。略式タイプの風帯になります。

*2:垂風帯(さげふうたい、たれふうたい) ⇒ いわゆるよく見かけるタイプの風帯です。本式タイプの風帯です。

(こちらに以前にブログ記事で書いた風帯の関連記事のリンクを載せておきますので、よろしければご覧ください。 ⇒ 風帯の関連記事

では、この掛軸の拡大写真を見てみましょうbell

7 ←『上(天)』の拡大。紙で出来た『上(天)』の上に紙を貼って『風帯(押風帯)』としています。

6 ←掛軸上部の拡大。

9 ←『一文字(上)』の付近。

8 ←『一文字(下)』の付近。

なんとなくですが、茶掛のイメージである「質素」や「侘び」が伝わりますでしょうか。

『草の草』仕立の用途ですが、茶掛にするのに適した作品に用いられる様式です。マニアックな話になりますが、『草の草』仕立は小間(四畳半以下)での茶席に用いるのに適しているといわれています。「『草の草』仕立では、紙表具が多い」と紹介しましたが、これは千利休(せんのりきゅう:わび茶の完成者)が紙表具を好んだことによります。

利休が完成させたわび茶のイメージとして、「質素」・「侘び」・「さび」・「風情」・「遊び心」などの言葉が挙げられることが多いですが、これは茶掛にも当てはまります。昔(少なくともわび茶が完成した当時)はこれらのイメージがより色濃く表現されている『草の草』仕立てが『草』仕立の中で最も格上の様式とされていました。このことは『草』というスタイルが、『真』というスタイルに対するアンチテーゼ(反対の考え方)を元にして起こったことを思い出すと、自然なことですね。つまり、『草』というスタイルは、『真』のスタイル(荘厳、重厚、格式、権威、豪華、など)とは反対のスタイル(質素、侘び、さび、風情、遊び心、など)を基本理念としているということです。

しかし、いつの頃からか価値の逆転が起こって、現在の考え方は利休がわび茶を完成させた頃とは違っています。つまり、現在では『草の行』仕立の方は『草の草』仕立よりも格上の作品に用いられるようになっています。これは様式として『草の行』の方が『草の草』よりも格上ということです。

私はわび茶を習ったことが無いのですが、掛軸の『草』仕立(特に『草の草』仕立)の持つ何とも言えない素朴さが好きです。そして、茶室の独特の雰囲気もいいなぁと思いますshine(とはいっても、茶室は文献でしか見たことありませんがsweat02

今日までで真・行・草の掛軸をざっと簡単にですが紹介しました。多少分かりにくいところがあったかも知れませんが、なんとなくは掛軸(広義の大和表具)のカテゴリを知っていただけたのではないかと思います。(『真』仕立は「仏表具」、『行』仕立は大和表具、『草』仕立は「茶掛」)

次回はこれまでのことを振り返っておこうと思いますscissors

では、次回もお楽しみにup

<おまけ>

大津絵などには『草の草』仕立を用いるのですが、本日紹介した『草の草』仕立から『一文字』をつけないタイプに仕立てることが普通です。ちなみに、『一文字』をつけない様式は略式風帯にするよりも格下の表現として用いられます。これは「『一文字』には高価な布を用いる」といった通念からだといわれています。あるいは、浮世絵や大津絵には「絵画作品には『一文字』を入れない」というかつての公式が働いているからかもしれません。

表具師 玉木楽山堂

http://www.tamakirakuzando.com/

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コメント

掛け軸の勉強させてもらってます。
草の草仕立の掛軸は、風帯が押風帯ということですが、輪補絵の一文字が無いのを言うのではありませんか。

ito 様

玉木楽山堂のブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。
また、コメントを下さり、ありがとうございます。

さて、お尋ねの草の草仕立の掛軸の件です。

ito様がご指摘の通り、草の草仕立には輪補絵の一文字の無い形式もあります。この場合、一般的には、天地は布を使うことになり、風帯は中廻と同じ布を使った垂風帯の形式、もしくは風帯が付かない形式になります。

一方、当ブログで紹介した形式の草の草仕立てもあります。つまり、草の草仕立てには、一文字のある形式と無い形式の両方が存在します。その点、当ブログ記事で一文字の無い形式について触れず、誤解を招いたことを深くお詫び申し上げます。

当ブログでは、草の草仕立の特徴を『一文字付きで、風帯は押風帯』と紹介しましたが、この形式は天地に布ではなく紙を使うことを前提としています。天地に紙を使う理由は、千利久が紙表具を好んだことを挙げることができます*。
ここには、「布よりも紙の方が質素である。」という考えがあるのだと思います。つまり、一文字が付いていても、天地に布よりも質素な紙を使うことによって、『一文字付きで、風帯は押風帯』の草の草仕立は、草の行仕立よりも格下の様式ということになります。また風帯は草の行仕立ての場合は本式の垂風帯ですが、この場合ですと略式の押風帯になりますので、この点でもこの仕立ては草の行仕立よりも格下の様式ということになります。(天地に紙を使った場合には普通は垂風帯を使いませんので、自然と風帯は押風帯になります。)

*:千利休は最も質素な草の草体こそを茶道の極みとして考えていたといわれており、草の行仕立よりも草の草仕立を格上のものとして捉えていた節があります。しかし、いつの頃からか逆転が起こって、現在は草の行仕立よりも草の草仕立を格下と見るようになりました。

他方、『一文字無し』の形式は、風帯の有無にかかわらず、一文字が付いていないということで草の行仕立てよりも格下になります(つまり、草の草仕立になります。)。

ところで、「(風帯の有無にかかわらず)一文字無し」と「一文字有りの押風帯」の二つの形式は、どちらも一般的です。「一文字無し」はどちらかというと古例に多く見られ、一方の「一文字有りの押風帯」は、今日、茶掛用としてよく見かけるもの、といわれていますが、これについてはそういう傾向があるといった程度です。

余談ですが、一文字を付けない形式は、風帯を略式風帯にする形式よりも、より格下の表現といわれています。これは、一文字の布には高価な布(金襴など)を用いるからだといわれています。

また、大津絵などを草の草仕立にする場合は、「一文字無しの風帯付」や「一文字無しの風帯無し」といった形式にすることが多いようです。この場合、一文字を付けない理由は、上記の理由の他にも「場合によっては、一文字が絵の鑑賞に障るから」ということも考えられます。

掛軸の形式は今回ご指摘の草の草仕立のように、その仕立の中に何種類かの形式を持つものがあります。そして、なぜこのようになったのかということに対する説明は諸説あります。今回お返事した内容は、諸説ある中のひとつとお考えください。

これからもお気づきの点などがございましたら、コメントをいただけると幸いです。

今後とも、玉木楽山堂と当ブログをどうぞよろしくお願いいたします。

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