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2011年9月 3日 (土)

別の観点から見た掛軸 その9 <床の間の様式と掛軸の関係⑤>

こんばんは玉木覚です

前回の記事から、床の間の『行』と掛軸の『行』について見ていくことをしています

今日は後編の記事です。前編(昨日の記事)では『行』(特に『行の真』)のお話を紹介しましたので、後編では『行の行』と『行の草』を歴史的観点から見てから、『行』の床の間と掛軸のお話に移りましょう。

まずはいつものように『真・行・草』の各言葉の意味やイメージについてみておきましょう。(このことは床の間の場合でも掛軸の場合でも、同様に解釈して用いることができます。)

●真 ⇒ 『真・行・草』の中で最も格上の様式。イメージは、荘厳、格式、厳粛、権威、豪華、など。また、武家様、唐様、仏教系の要素を持つ。

●行 ⇒ 『真・行・草』の中で二番目に格上の様式。イメージは、端正、優雅、憩い、など。また、公家様、和様、神道系の要素を持つ。

●草 ⇒ 『真・行・草』の中で最も格下の様式。このことから「格落ち」の意味を含む。イメージは、侘び、さび、雅趣、風情、遊び心、など。また、武家様に対する反対の概念(アンチテーゼ)や禅的な考え方を持つ。

禅的な考え方 ⇒ 『草』は武家様の反対の概念を持っているとはいえ、千利休が当時の武家社会に立脚していたことを考慮すると、やはり千利休が生んだ『草』は武家様の対極にありながらも武家様の一面を写すものと考えられます。

まずは、『行の行』の歴史的背景を見ていきましょう。

『行の真』的な考え方(昨日の記事の官人的な『行の真』や神祇的な『行の真』)に対して、女文字と呼ばれる仮名を生み出し、情緒的な女日記や説話文学をものにした宮廷の女房達による女性文化の時代が、10世紀中ごろから約1世紀の間に展開しました。これは文化の国風化に伴い、『行の真』の特徴である「益荒男(ますらお)」に対峙するかのような「手弱女(たおやめ)」をその象徴とするものです。

この国風化=和様化は女性化を意味しています。すなわち、御所解き(ごしょどき)模様に見られるような非対称な形体、上品でなおかつ情緒的なスタイルを好む文化が生まれ、これが現在まで受け継がれていると考えられます。これが『行の行』のスタイルと考えられます。

なお、『行の草』は、江戸時代の町人たちによって本道の『行』とは趣の異なる「いき(粋)」という考え方を取り入れて発展した『行』のことです。(詳しくはこちらをご覧ください。⇒『2011年8月25日 (木) 別の観点から見た掛軸 その3 <床の間②>』

歴史のお話はこのあたりまでにしまして、ここからは『行』の床の間と掛軸の関係を見てみましょう。

<床の間の様式の『行』について>

床の間が建築に用いられるようになったのが、公家が政治の表舞台から退いた比較的近年のことですので、『行の真』に相当する床の間は宮家以外には存在しないと思われます。『行の行』の床の間は、上述のような『行の行』の特徴を具体的な形にした床の間が相当すると考えられます。『行の草』の床の間は、『行の草』の発生過程を考えると、町人方の床の間を対応させることができるでしょう。(余談ですが、『行の草』にはこの他にも江戸中期以降の東北地方、特に日本海側の豪農たちが示した重厚でありながら素朴な床の間も存在します。)

<掛軸の様式の『行』について>

『行』の仕立は、「大和表具」の別名があるように、純日本式の様式としてもっとも広く用いられています。また、『行』の仕立は、「幢補(どうほ)仕立」とも呼ばれています。『行』仕立には、『行の真』、『行の行』、『行の草』の三つの様式が存在します。一般的には、『行の真』が最も格が高く、『行の行』が二番目に格が高く、『行の草』が最も格が低いとされています。この三つの見た目の違いを言いますと、『行の真』は一文字廻、『行の行』は上下の一文字、『行の草』は一文字なし、となります。

●『行の真』仕立は、神道関係のものを取り扱った作品に使われることが多いです。神道的な主題を持つ作品には、神道そのものを表現しているもの、民俗信仰的な神、中国渡りの今日では日本で神として信仰されるようになったものを表現しているものがあります。例えば次のようなものです。

【神道そのものを表現したものの例】

神名号、神影、天皇の御姿、宸翰*1、菅公図*2、神道に関した集印、など。

*1:宸翰(しんかん)とは、天皇直筆の書簡、筆跡のことです。

*2:菅公図(かんこうず)とは、菅原道真の御姿です。天神像ともいわれます。『真』仕立(仏表具)にされることもあります。

また、神道系には、風景画としての日の出、富士、瀧、動物では鹿、植物では松、人物では「翁(おきな)と媼(おうな)」、などがあります。さらに、武者画や雛図などの節句画も『行の真』で仕立てられることがあります。

【中国渡りのものの例】

鯉、虎、龍(蛇)、獅子、海老、七福神、鍾馗(しょうき)、など。

「民俗信仰的な神」の関しては、ネットで調べてみてください。

●『行の行』仕立は、現在では神仏・文人物以外のほぼ全般に用いることの出来る汎用性が高い様式です。『行の行』仕立の様式の本来の用途は和様作品です。絵画においては風景、花鳥、静物画など大和絵を含む広範な分野で、書では和様の書作品、仮名作品において多く用いられます。このようなことから、わりあい目にする機会の多い掛軸の様式ではないでしょうか。

●『行の草』仕立は、美人画などの風俗画や琳派系の装飾絵画のように、町家方絵画の格が下がるとされるものに用いられることが多いです。つまり、絵画作品の中でも「艶」や「崩し」の表現が見られる、あるいは品性が少し劣るとされる場合です。

話が長くなりましたので、ここからは床の間と掛軸をさらりと照らし合わせてみます。

床の間でも掛軸でも、『行の真』→『行の行』→『行の草』の順に格が下がっていきます。この傾向は『真』のときと同様ですね。また、『行』は床の間でも掛軸でも「神道系」、「和様」を取り扱っていることが共通点として挙げられます。このことからも、やはり、床の間と掛軸は密接にかかわっていることがわかります。

美術館などで、『行の真』、『行の行』、『行の草』の掛軸を発見したときには、『行』の歴史的な背景を思い出してみてください。美術館や博物館でしたら、その掛軸を説明文を読みながら歴史的な背景を思い出して鑑賞すると、掛軸の楽しみ方が広がりますよ。

6  2 ←『行の真』仕立 1 ←『行の真』仕立(拡大)

7  3 ←『行の行』仕立 3_2 ←『行の行』仕立(拡大)

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次回は床の間の『草』と掛軸の『草』について見ていきます

お楽しみに~

表具師 玉木楽山堂

http://www.tamakirakuzando.com/

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