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2011年9月19日 (月)

デザイン表具について<その5>

こんばんは玉木覚です

デザイン表具のデザインに関するお話の続きです

前回の記事では、掛軸を作る際の様式の選定と様式の遵守がいかに大切であるかについてお話しました。そして、このことはデザイン表具のデザインを決める上で大きなヒントになります

以前のブログ記事で、デザイン表具の意匠(デザイン)を決めるときには、掛軸に仕立てる作品に対して、

1.掛軸を作ることの意味。

2.今までの記事で紹介してきたような掛軸の歴史的・文化的な側面を考慮に入れること。

3.掛軸を掛ける場所を考慮に入れること。

などを考える必要があると書きました。(これらのことはデザイン表具に限らず掛軸を作る上で見落とすことができない要素だと思いますが、特にデザイン表具を作るときには意識をしたほうが良いことだと思っています。)

今回の記事では、前回まででお話しました「1.掛軸を作ることの意味。」と「2.今までの記事で紹介してきたような掛軸の歴史的・文化的な側面を考慮に入れること。」に、3.の要素を絡つつデザイン表具のデザインの決め方について考えてみます。(1.と2.については前回までの記事をご覧ください。)

参考までに、いつものように大まかな掛軸の分類を見ておきましょう

掛軸は次の3つ(4つ)に大きく分けられます。(青地は詳細の記事にリンクしていますので、よかったらご覧ください。)

<掛軸のおおまかな分類>

①(広義の)大和仕立 ⇒ 『真』仕立(仏表具)『行』仕立(大和表具)『草』仕立(茶掛) (更に『真の真』・『真の行』・『真の草』『行の真』・『行の行』・『行の草』、『草の行』・『草の草』の合計8体に分けられる)

②文人仕立 ⇒ 『丸表具(袋表具、袋仕立)』『二段文人仕立』『唐表具』

【*:『文人仕立』の補助様式として、『明朝仕立』があります。また、『明朝仕立』のバリエーションとして『太明朝仕立』『筋割明朝仕立』『上下明朝仕立』があります。】

③デザイン表具(創作表具、造形表具)

(④その他の様式(絵伝表具))

<補足>

【☆:『(広義の)大和仕立』『文人仕立』の補助様式として、『台表具』および『刳抜表具』があります。

【☆☆:現在ではあまり用いられることのなくなった様式として、『見切仕立』と『韃靼表具』があります。】

では、今日の本題に入ります

以前の記事で、『デザイン表具は、「①(広義の)大和仕立」、「②文人仕立」、「④その他の様式」のどの様式にも当てはまらない作品に対して用いる形式、もしくは上記のどの様式でもない自由な形式の掛軸を指していうもの。』ということを紹介をしました。

では、具体的にデザイン表具に仕立てられる作品はどのようなものが多いのでしょうか。これは、上述の紹介文に忠実に考えると、基本的には洋風の作品ということになります。しかし現実には、文人画・南画などの絵画系の作品から書作品などなど、幅広いジャンルの作品に用いられています。このことは、それだけデザイン表具の自由度(言い換えれば柔軟性)が高いということではないかと思います。

掛軸を作るうえで、『3.掛軸を掛ける場所を考慮に入れること。』は重要なポイントであり、これはデザイン表具を作る際にも重要なポイントになります。むしろ、デザイン表具を作るときの方が、より神経を使うことかもしれません。

掛軸を床の間の『床』(掛軸を掛けるへっこんだ場所、写真参照)以外、例えば洋室に掛けることを前提とするなら、その洋室の雰囲気(インテリア)のイメージに調和するような掛軸を設計することが必要になってきます。例えば、モダンならモダン、カジュアルならカジュアルに沿ったデザインを設計する、といったことです。これは、デザイン表具を設計する上で、キーポイントになります。

3 ←『床』の例(掛軸が掛かっている空間が『床』です。)。

ところで、この一連の記事の主題は『デザイン表具のデザインの決め方』でしたね。そして、この主題を考える上で生じる『程度の差こそあれ既存の様式を踏襲するか、それともまったく新規のデザイン(様式)を作り出すか』という問題について、冒頭の1.、2.、3.をもとにして数回にわたって考察してきました。ここまでの主だったキーポイントをまとめますと、次のようになります。

主だったキーポイント

●掛軸の意匠(デザイン)は作品を引き立たせるように設計するべきであって、逆の表現をすると作品を台無しにするような意匠(デザイン)は避けるべき。

⇒デザイン表具に限らず、掛軸(ひいては表具全般)を設計する上で、大前提になると思います。

●様式のことを知っていると作品のモチーフや格式が分からなくても、様式から作品のモチーフや格式を推し量ることが可能になる。

⇒例えば、『行の真』仕立の掛軸を見たときに鑑賞者が『行の真』仕立のことを知っていれば、「この作品のモチーフは神道的な意図を持っているんだろうな」と推察することができる。

●様式を遵守することは掛軸自体の用途(用法)を明確にすることができると考えられる。

こちらの記事をご覧ください。

上記のことを見ていますと、『程度の差こそあれ既存の様式を踏襲するか、それともまったく新規のデザイン(様式)を作り出すか』という問題についてのひとつの答がなんとなく見えてきませんか。この問題に対して、私自身は、「デザイン表具のデザインを決める上で、程度の差こそあれ既存の様式を踏襲する」ようにしています。

今までのブログ記事をご覧の読者様はお気付きだと思いますが、既存の掛軸の様式は、長い歴史を生き抜いていく中でさまざまな文化を吸収・反映しながら現在に至っています。そして、各様式のデザインには必ず意図があり、部材の組み合わせには必然が付きまといます。一方、昔々に文人様の作品に対して文人仕立を採用したように、時代に応じた新しい様式を作ることが必要なことも事実だと思います。

しかし、掛軸の寸法の割付(別の機会に紹介します)や表具地のコーディネーションを含む意匠(デザイン)の設計の伝統的な技術を無視するべきではないと思っています。なぜなら、繰り返しになりますが、これらは長い年月の間に洗練されてきた知恵の結晶だと思うからです。逆に言うと、まったく新規の様式(デザイン)を作り出すことは、色々な意味でとてつもなく大変なことであると思います。

デザイン表具のデザインに関するお話は、今回で一区切りにされていただきます。マニアックな内容になりましたが、大丈夫でしたでしょうか?余談ですが、今回の一連の記事で登場したキーポイントは、表具師という仕事の根本と深く関わっています。このあたりのお話は別枠でゆっくりと紹介したいと思っています~

表具師 玉木楽山堂

http://www.tamakirakuzando.com/

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