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2011年10月 4日 (火)

表具のお話 その5 <雑談ですが>

こんばんは玉木覚です

前回までの記事で、表具師の変遷をなんとなく見ていただけましたでしょうか

今回は表具職に関するネタでの中でも根本的(?)だと思われますが、比較的マニアック度の高いお話について文献を参考にしつつ考えてみたいと思います。

1.『経師』という名称について。

これまでの記事で紹介してきましたように長い歴史の中で多少の仕事内容の変化はあったものの、『経師』という職業の名称にはある程度の一貫性があると考えられます。しかし、経師とはそもそも三蔵のうちの経蔵(釈迦の説いた教えの総称)か経書(儒教の経典を教える人)を意味しており、日本では写経・表具・印刷など多様な職業にあった人を指すことから、意味の上では一貫性がありません。

2.『表具師』という名称について。

一方、『表具師』という呼称に関してですが、そもそも『表』という文字自体に『表具』の意味が無いといわれています。山本元、谷崎潤一郎、楠瀬日年らの大正時代の方々は、自身の著書で『表具(ひょうぐ)』を『裱具(ひょうぐ)』と書いているそうです。ところで、『表』は常用漢字でありますが、『裱』は常用漢字に含まれていません。これがこんにちでは『裱具』ではなく『表具』と表記される一因になっているのかもしれませんね。

3.表具職の名称について。

ある文献には、上述の1、2のことと前回までのブログ記事を踏まえた上で、表具職を表す名称には『裱褙(ひょうほえ)師』が最も適当ではないかと書いてあります。「裱」には表紙を飾ること、「褙」には裏打ちをすること、の意味があると以前の記事で紹介しましたが、これは「裱」⇒表⇒鑑賞、「褙」⇒裏⇒保存と連想することができます。しかし、常用漢字の問題と漢字に対する一般認識の制約から、現在では『裱褙(ひょうほえ)師』は使われていないようです。このことから現在では「表具師」や「経師」という名称が適当とされています。

4.「経師」と「表具師」について。

現在では「表具師」=「経師」となっていますが、表具師の歴史を遡っていきますと表具師は経師から分化したと考えられています。「表具師」が「経師」から分化したのは、室町時代のあたりだといわれています。

ところで以前のブログ記事(2011年9月26日 (月))で、<表具に含まれるもの>とその関連記事として、下記の内容(斜体部分)を紹介しました(一部抜粋)。

<表具に含まれるもの>

●掛軸、額装、襖、屏風、衝立、巻子、帖、障子張り、貼付壁、など。

*注:これには色々な解釈があるのですが、文献等で確認できるものの中で、一般的に「表具」と認識されているものを載せました。

「表具師」は、上述の<表具に含まれるもの>を設計したり作ったりしている者です。

少しは「表具」というもののイメージが湧きましたでしょうか。

『具体的に何が「表具」なのか?』と問われますと<表具に含まれるもの>に記したものになります。しかし、これは多少曖昧な部分がありまして、法律のようにキッチリと決められているわけではありません。その理由には、後の記事で紹介する「経師(きょうじ)」という仕事が「表具師」の仕事に関係しているからです。

「経師」と「表具師」について一通り見た今、このことに関しまして少し補足をさせていただきます。

ある文献には、『表具の範疇とは、掛物・襖・屏風・和額・衝立・貼付壁などの調整・加工・施工を指し、これに障子張りを含める。』とあります。そして、『巻子・綴本・折本などの和本の仕立てや、料紙・色紙・短冊などの支持体作りは経師の仕事として表具の範疇とはしません』と書かれています。その理由には、『これらは単体で存在し、他のインテリアエレメントからの制限を受けないからです。』とあります。そして、「経師」と「表具師」の一番の違いは「経師の仕事は基本的には居職であり、表具の仕事は居職と出職の中間に位置する。」と記載されています。

:逆に考えると、例えば掛物(掛軸)の場合ですと、床(とこ)というインテリアに様式が制限を受けます。『真』の床の『草』仕立(茶掛)の掛軸を掛けると変ですよね。

今まで紹介した内容とこのことを合わせて考えますと、元来、「経師」と「表具師」は職の性質(居職か出職か)に違いがあったようです(現在では「表具師」=「経師」)。しかし、現在、巻子を作っていらっしゃる表具屋さんは多いと思いますし、逆に料紙・色紙・短冊などの支持体作りをしていらっしゃる表具屋さんは多くないように思います(「経師」=「表具師」なら、料紙・色紙・短冊などを作る仕事も表具師さんが行うことが普通になります。)。この事実は、時代とともに「経師」と「表具師」の仕事内容と仕事の性質(居職か出職か)があいまいになったことを意味しています。

つまり、『しかし、これは多少曖昧な部分がありまして、法律のようにキッチリと決められているわけではありません。その理由には、後の記事で紹介する「経師(きょうじ)」という仕事が「表具師」の仕事に関係しているからです。』という一節は、「時代とともに「経師」と「表具師」の仕事内容と仕事の性質(居職か出職か)があいまいになった」ということに深く関係しています。また、「経師」と「表具師」に関することは、このブログで取りあげている説以外にも諸説あります。このこともあいまいさが生じていることの一因であると考えられます。しかし逆にいうと、表具職が長い長い歴史を持った分野であるということを物語っているのではないでしょうか。

今回で、『表具のお話』と題した一連の記事は一区切りとさせていただきます。今回の記事はかなりマニアックな内容になりましたが、お楽しみいただけましたでしょうか

次回の表具関連の記事は、掛軸の取り扱い方など身近なネタを紹介します

お楽しみに~

表具師  玉木楽山堂

http://www.tamakirakuzando.com/

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